福岡地方裁判所 昭和27年(行)38号 判決
原告 小田寅男
被告 福岡通商産業局長
被告補助参加人 牧園鉱山有限会社
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告が訴外中島繁次郎に対してなした昭和二十六年六月一日附鹿児島県試掘権登録第五三二一号及び昭和二十七年二月一日附同第五三三九号の硫黄、硫化鉄鉱の各試掘権設定許可処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十五年八月十五日被告福岡通商産業局長に対し鹿児島県姶良郡牧園町大字万善面積一万九千四百九十四アールにつき金、銀、銅、硫化鉄鉱の試掘権設定願書を提出し、右願書は同局受付第一〇七三号を以て受理された。同区域には原告の出願より先に、右区域と重複して訴外江夏実右衛門、及び前田正吉からそれぞれ別途に「硫黄」の試掘権設定の出がなされていたが、金、銀、銅、硫化鉄鉱については原告より先に試掘権設定の出願をなした者はなかつた。ところがその後訴外中島繁次郎は右訴外江夏及び前田よりその硫黄試掘出願人たる地位をそれぞれ譲受け、原告の前記出願後にこれ等に対しそれぞれ硫化鉄鉱を目的とする鉱種名追加申請をなした。昭和二十六年新鉱業法が施行せられて後は出願中の鉱種名追加は受理すべきでないに拘らず、被告は右中島の追加申請を受理した上、同人に対し硫黄以外に硫化鉄鉱をも併せて請求の趣旨記載の各試掘設定許可処分をなした。しかしながら右許可処分は鉱業法の採用する先願主義の原則に違反し、前記原告の硫化鉄鉱に対する先願権を侵害するものであるから、公序良俗に反する違法の許可というべきである。
よつてこれが取消を求める為、本訴に及んだ。と述べ、被告の主張に対し、本件出願地においては硫黄と硫化鉄鉱は被告主張のように同種の鉱床中に賦存するものではなく異種鉱床中に存するものである。すなち
(一) 本件出願区域の硫黄の成因は噴気ガスに成因するもので噴気ガス中の硫黄の晶出及び噴気と共に噴出する温泉より遊離生成したものであつて極めて徴少なものである。湯の池及び島ケ池地獄にあるものは共に極めて一部に限られて存在するものであつて鉱業の価値はない。右の如く硫黄の生成存在は極めて小範囲の噴気孔のある一少部分に限られる事実からして硫黄鉱床としては極めて薄弱である。
(二) 他方、硫化鉄鉱の成因としては数次にわたる霧島火山の噴火の内第四次爆発に属する大浪池火山の生成期において硫酸性の湧泉中に含まれた鉄分及び硫黄分が化学的作用により黄鉄鉱として晶出沈澱したもので本硫化鉄鉱床は本件出願地域において極めて広範囲にわたつて数十糎より数十米にわたるブロツク状沈澱をなして賦存するものである。上述のとおり本件出願地域における硫化鉄鉱は明かに別途の成因に基き生成したものであつて硫化鉄鉱は硫黄より古い成因によるものである。
次に本出願地域の地質的構造を説明すれば前述の如き黄鉄鉱の沈澱層生成後たまたま後期においてガス噴気孔が出現したもので鉱床の成因からして硫黄と硫化鉄鉱は別の鉱床をなしていて同種の鉱床中に存するものではない。仮に本件区域における硫黄と硫化鉄鉱が同種鉱床中に存するものとしても硫鉱の含有量は極微量であつて鉱業的価値のないものであるから当初の硫黄の試掘出願は鉱業法第三十五條に違反し許可すべからざるものである。かかる場合には右出願に硫化鉄鉱の追加申請をなしてもこれにより当初の出願が許可すべきものとなる謂われがないから、これに対しなされた許可は無効であるというべ、従つて本件各許可処分は取消さるべきものである。と述べた。(立証省略)
被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中原告が昭和二十五年八月十五日被告に対しその主張内容の試掘権設定の出願をなし被告がこれを受理したこと、右出願区域には原告の出願より先に、右区域と一部重複して訴外江夏実右衛門及び前田正吾からそれぞれ昭和二十四年五月三十日附出願受理番号同年第二一六号及び昭和二十五年六日二十三日附出願受理番号同年第九一七号を以て硫黄を目的とする試掘出願がなされていたこと及び訴外中島繁次郎が右江夏及び前田からその硫黄試掘出願人名義の譲渡を受け、昭和二十六年四月二十三日附で被告に対し硫化鉄鉱を目的とする鉱種名追加届をなし、被告が右追加届を受理し右中島に対し原告主張の各試掘権設定許可処分をなしたことはいずれもこれを認めるが、その余は否認する。原告は硫化鉄鉱については原告の出願が先願である旨主張するが鉱業法第十六條の規定によれば同一の区域において二以上の鉱業権を設定し得るのは異種の鉱床中に存する鉱物を目的とする場合及び同法第四十六條の場合に限られているから重複区域についての原告の硫化鉄鉱の出願が先願となる為には原告出願の右目的鉱物と訴外江夏及び前田出願の目的鉱物が異種の鉱床中に存する場合でなければならない。然らざれば鉱業法第二十七條の規定により重複する部分については願書の発送の日時の先である訴外江夏及び前田(従つてその承継人である訴外中島)の出願が鉱業権の設定について優先権を有するのである。しかるに昭和二十六年四月十日被告において右出願地の現地調査を実施した結果右区域の鉱床は泥状硫黄と硫化鉄鉱との沈澱鉱床であることが発見され、右区域においては硫化鉄鉱は硫黄と同種鉱床中に賦与しているものであることが判明した。従つて鉱業法第五條、第十六條、第二十七條の規定により訴外江夏及び前田の承継人訴外中島は他に優先して硫黄及びこれと同種の鉱床中に存する硫化鉄鉱を掘採し得る期待権を有する訳であり、原告は硫化鉄鉱についての先願権を有しないものである。又鉱種名追加については元来訴外中島は前述のとおり硫黄及びこれと同種の鉱床中に存する硫化鉄鉱をも適法に掘採する期待権を有するのであるから硫黄の試掘出願後硫化鉄鉱が同種の鉱床中に存する事実が判然とすれば許可登録前と雖も願書の補正の意味において鉱種名追加届を提出して差支えなく又これが鉱床関係調査の上同種鉱床中に存するものと被告において認めたものはこれを容認しても何等違法の措置ではない。(それ故被告は昭和二十六年新鉱業法の施行後も同年七月十九日西日本通商産業局出願課長会議で事務の煩瑣を避ける為出願中の鉱種名更正を認めない旨の申合せをなすまではこれを認めてきている。)仮に右中島の鉱種名追加届を受理していない場合においても硫黄の鉱業権者である中島は鉱業法第五條、第十六條の規定により同種鉱床中に存する硫化鉄鉱を掘採取得し得るのであるからいずれにしても原告の出願権を侵害するものではない。従つて本件許可処分には何等違法の点は存しない。と述べ、本件区域における硫黄の含有量が極微で鉱業的に価値がないとの点に関する原告の主張事実を否認し、なお本件試掘権についてはその後いずれも延長申請に基き延長許可がなされている。と附陳した。(立証省略)
被告補助参加代理人は参加の理由として参加人は昭和二十七年七月十日前記中島繁次郎から本件試掘権の譲渡を受け同月二十三日鉱業登録原薄に鉱業権移転の登録を完了しているので若し原告の請求が認容されれば参加人は重大な損害を受けるから被告を補助するため参加する旨を述べ、答弁として、本件出願区域の硫黄と硫化鉄鉱が同種鉱床中に賦存するものでないとの点及び硫黄の含有量は極微量で鉱業的に価値がないとの点に関する原告の主張事実を否認する。と述べた。(立証省略)
三、理 由
原告が昭和二十五年八月十五日被告に対し原告主張内容の試掘権設定の出願をなし、右願書が受理されたこと、原告の出願より先に訴外江夏実右衛門及び前田正吉からそれぞれ右出願区域と一部重複する区域につき硫黄の試掘出願がなされていたが、訴外中島繁次郎は右江夏及び前田からその硫黄試掘出願人たる地位をそれぞれ譲受け昭和二十六年四月二十三日被告に対し硫化鉄鉱を目的とする鉱種名追加申請をなし、被告が右追加申請を受理し右中島に対し硫黄と硫化鉄鉱の双方を目的とする原告主張の各試掘権設定の許可処分をなしたことは当事者間に争がない。
原告は被告が訴外中島繁次郎の硫化鉄鉱を目的とする鉱種名追加申請を受理し、同訴外人に対し前示各試掘権設定の許可処分をなしたことは原告の硫化鉄鉱についての先願権を侵害するものである旨主張するから考えるに、間種の鉱床中に存する鉱物を目的とする鉱業権は鉱業法第四十六條の場合(本件は右場合に該当しないことは明かである。)を除き、同一地域にはただ一個しか設定され得ないものでああることは鉱業法第十六條第一項により明らかであり又同法第五條によれば鉱業権者は登録を受けた一定の土地の区域において登録を受けた鉱物及びこれと同種の鉱床中に存する他の鉱物を掘採取得し得る権利を有するものであるから、本件出願区域において硫黄と硫化鉄鉱が同種の鉱床中に賦存するものとすれば、硫黄につき許可があれば硫化鉄鉱をも掘採できる関係にあり、従つて本件出願地の先願人である訴外中島は他に優先して硫黄の外硫化鉄鉱をも掘採取得し得る期待権を有するものといわなければならない。出願人は出願当時同種の鉱床中に存するものと判明しているものはすべて目的鉱物として同一の願書で出願することができ(鉱業法第二十一條第三項)又許可登録後に他の鉱物が同種の鉱床中に存することが判明した場合これを掘採しようとするときは鉱業法第六十七條の鉱種名変更の手続をとれば足るのであるが、出願後許可前に他の鉱物が同種の鉱床中に存することが判明し、しかもこれをも掘採しようとするような場合には、先の願書を補正する為出願人に目的とする鉱物の名称として右鉱物名の追加申請を許容しても、元来出願人は目的鉱物と同種鉱床中に存する他の鉱物を掘採取得し得る期待権を有すること前説示のとおりであるから、これによつて後順位の出願人の利益を侵害することにはならないというべきである。なお右の意味における鉱種名の追加を許容することは当初出願した目的鉱物の掘採が経済的に価値がなく不許可とせらるべき虞があり、かつ出願後許可前までの間に同種鉱床中に鉱業的価値のある他の鉱物の存することが判明したような場合には願書補正の意味において右鉱物名の追加を許容することによつて、出願人は不許可を免れその利益を保護することができるのであつて、これを認める実益があるものというべく、鉱業法第五條第十六條第一項第三項第二十八條第六十七條等の規定の趣旨に照しても、かような場合に願書の補正として鉱種名の追加を許容し得るものと解するのが相当である。而してこの場合にはその当初の分の願書の発送の日時に追加の分についても出願をなしたものとみるのを相当とするからその中間において他人から追加の分と同一鉱物につき出願がなされたとしてもそれは先願とはならない。
そこで本件出願区域において硫黄と硫化鉄鉱が同種の鉱床中に賦存するものであるか否かを審究するに、成立に争のない乙第三号証、証人木下亀城、蓑原稔の各証言及び証人木下亀城の証言により成立を認められる丙第一号証の一乃至六によれば、本件出願区域の鉱床は微粒の硫黄と硫化鉄鉱の沈澱鉱床であつて硫黄と硫化鉄鉱は同種の鉱床中に賦存するものであることが認められ、右認定を覆するに足る証拠は何等存しない。さすれば被告が中島の硫化鉄鉱を目的とする鉱種名追加申請を受理し、本件各試掘権許可処分をなしたのは何等違法の措置ではなく、原告の出願権を侵害するものではないといわなければならない。従つて原告の右主張はこれを採用しない。
次に原告は本出願域区の硫黄は含有量が極微であつて、鉱業的価値のないものであるから、当初の硫黄の試掘出願は鉱業法第三十五條に違反し許可すべからざるものであるというべく、かかる場合に右出願に硫化鉄鉱を追加申請してもこれにより当初の出願が許可すべきものになる理由がないからこれに対してなされた許可は無効である旨主張するけれども、仮に硫黄の鉱量が乏しくその掘採が経済的に価値がないとしても、前説示のとおり硫黄に対する願書の発送の日に硫化鉄鉱についても同時に出願されたものとみるから本件は原告の出願前に出願したこととなり、従つて硫化鉄鉱についても亦鉱業法第三十五條に規定する事由が認められない限り本件各許可処分は違法なものということはできない。而して本件硫化鉄鉱が鉱業的に価値がないとの点については原告の何等主張立証しないところであるから原告の前記主張は爾余の点を判断するまでもなく理由がないものである。
以上の次第であるから原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 鹿島重夫 大江健次郎 武居二郎)